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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)4250号 判決

原告 株式会社 拓銀

右代表者代表取締役 市川康雄

右訴訟代理人弁護士 萩秀雄

右訴訟復代理人弁護士 小林芳男

被告 株式会社 静岡相互銀行

右代表者代表取締役 香川正一

右訴訟代理人弁護士 堀家嘉郎

右訴訟復代理人弁護士 松崎勝

被告 東京信用保証協会

右代表者理事 磯村光男

右訴訟代理人弁護士 成富安信

同 成富信方

同 青木俊文

同 田中等

同 高橋英一

同 中山慈夫

同 中町誠

被告 国民金融公庫

右代表者総裁 佐竹浩

右代理人 鎌野悦雄

右訴訟代理人弁護士 石川勲蔵

被告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 鈴木敏夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、

(一) 被告株式会社静岡相互銀行は金四八万四六七〇円及びこれに対する昭和五五年五月一五日から

(二) 被告東京信用保証協会は金一九万三八九八円及びこれに対する昭和五五年五月一四日から

(三) 被告国民金融公庫は金一三二万二四四六円及びこれに対する昭和五五年五月一四日から

(四) 被告甲野花子は金四四二万〇〇三五円及びこれに対する昭和五五年六月一八日から

それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告甲野花子(旧姓甲月、以下「被告甲野」という。)は、かつて、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。

2  被告甲野は、本件建物につき、

(一) 被告株式会社静岡相互銀行(以下「被告銀行」という。)のために、債務者被告甲野との昭和四三年七月二七日付手形取引契約、継続的貸付契約、無尽及び相互掛金契約により生ずる債権を被担保債権として、同日付で元本極度額一〇〇万円、損害金日歩五銭の順位一番の根抵当権を設定し、その旨の登記を了した。

(二) 被告銀行のために、債務者訴外住宅工芸株式会社との同年八月三一日付手形取引契約、継続的貸付契約、無尽及び相互掛金契約から生ずる債権を被担保債権として、同年九月四日付で元本極度額五〇万円、損害金日歩五銭の順位二番の根抵当権を設定し、その旨の登記を了し、この根抵当権は、昭和四五年一〇月八日に被告東京信用保証協会(以下「被告協会」という。)がその確定した被担保債権を代位弁済したので、その債権とともに被告協会に移転した。

(三) 被告国民金融公庫(以下「被告公庫」という。)のために、債務者住宅工芸株式会社との昭和四四年一〇月二七日付金銭消費貸借契約による債務を担保するため、同日付で債権一五〇万円、利息月利六厘八毛三糸、損害金日歩四銭の順位三番の抵当権を設定し、その旨の登記を了した。

3  東京地方裁判所は、昭和四七年一〇月一六日、被告銀行の任意競売申立てに基づき、本件建物について競売開始決定をなし(東京地方裁判所昭和四七年(ケ)第七二二号任意競売申立事件)、右任意競売申立事件の昭和四八年二月一五日行われた競売期日において、原告は本件建物を代金四四七万七〇〇〇円で競落し、右代金を支払った。

4  原告の支払った右競落代金は、同年六月二八日その配当が行なわれ、まず競売手続費用七万八四三〇円を控除した後、被告らに次のとおり交付された。

(一) 被告銀行に対し、昭和四三年八月一六日貸付元本三四万円及びこれに対する昭和四六年三月一日から昭和四八年六月二八日まで日歩五銭の割合による損害金一四万四六七〇円の合計四八万四六七〇円

(二) 被告協会に対し、昭和四三年九月五日代位弁済にかかる元金一六万六六六六円及びこれに対する昭和四五年一〇月八日から昭和四八年六月二八日まで日歩五銭の割合による損害金二万七二三二円の合計一九万三八九八円

(三) 被告公庫に対し、昭和四四年一〇月二八日貸付元本九八万円及びこれに対する昭和四五年七月一一日から昭和四八年六月二八日まで日歩四銭の割合による損害金三四万二四四六円の合計一三二万二四四六円

(四) 被告甲野に対し、所有者還付金として二四一万九〇二一円

5  原告は、本件建物を競落するにあたり、競落期日の約一か月程前から本件建物について調査を行い、その結果、昭和四八年二月一日頃までには被告甲野の代理人である姉から地上権又は賃借権が存在する旨の説明を受け、また、被告甲野は本件建物の敷地の前の所有者である乙山春夫の庇護を受けている者であって、本件建物も右乙山春夫から直接贈与を受け、又は、建築費用の援助を受けて建築したものであって、昭和四五年一〇月一九日に敷地の所有者が乙山春子となった後も円満に土地使用を継続しており、右乙山春子から正式な契約書の作成を提案されていた等の事実が判明した。原告は、これらの調査の結果によって、本件とは別件の建物の競売事件で敷地が親の名義であった事案について地上権が存在するものと認められた経験からも、本件建物にも地上権又は賃借権が存在するものと確信し、さらに、本件建物の競売期日にはその直前に競売記録を閲覧して評価書に地代は不明であるが借地権が存在する旨の記載を確認した。このようにして、原告は、本件建物について賃借権、地上権等敷地所有者に対抗しうる敷地使用権があるものと信じてこれを競落したが、実際にはそのような敷地使用権は存在せず、後記四記載の経緯から原告は本件建物を収去せざるを得なくなった。

原告の右錯誤は要素の錯誤にあたるものであるから、原告の本件建物の競買申出は錯誤により無効であり、従って本件建物の競落許可決定もまた無効である。

6  よって、被告銀行、被告協会及び被告公庫はそれぞれ交付を受けた前記4(一)ないし(三)の配当金を、被告甲野は前記4(四)の所有者還付金及び右被告三名が交付を受けた右配当金の合計額を、原告に対し不当利得として返還すべき義務がある。

7  仮りに、右錯誤の主張が認められないとしても、競売の場合についても通常の売買と同様、建物は特別の事情のない限り敷地使用権があるものとして競落されるのが通常であり、右敷地使用権の内容を考慮して建物評価額及び最低競売価額が決定されているのが現状であるから、かかる敷地使用権の不存在については、物の瑕疵について定める民法五七〇条ではなく、地役権の不存在の場合について定める同法五六六条二項が類推適用され、従って同法五六八条一、二項に基づき債務者及び債権者は右敷地使用権の不存在につき担保責任を負うものと解すべきである。

8  そして、本件建物の競売にあたっても、評価人の評価額、裁判所の定めた最低競売価額のいずれとも、敷地使用権が存在することを前提として定められているのであって、前記のとおり、原告は、本件建物には敷地使用権が存在するものと信じてこれを競落したものであるにもかかわらず、実際にはかかる敷地使用権は存在せず、原告は本件建物を収去せざるを得なくなったものであり、本件建物を競落した目的を達することができなくなった。

9  原告は被告甲野に対し、原告の昭和五五年九月二六日付準備書面をもって、前記原告が本件建物を競落したことにより成立した売買契約を解除する旨の意思表示をなし、右意思表示は遅くとも同年一〇月一日には到達した。

10  よって、被告甲野は解除に伴う原状回復として原告の支払った競落代金を支払うべき義務があるところ、被告甲野は無資力であるので、前記4(一)ないし(三)の配当金の交付を受けた被告銀行、被告協会及び被告公庫も、民法五六八条二項に基づき、交付を受けた配当金を返還すべき義務がある。

11  従って、原告は被告らに対し、主位的には原告の本件建物の競落が錯誤によって無効であることに基づく不当利得の返還として、予備的には民法五六八条一、二項に基づき、被告銀行に対し四八万四六七〇円、被告協会に対し一九万三八九八円、被告公庫に対し一三二万二四四六円、被告甲野に対し四四二万〇〇三五円の各支払いを求めるとともに、本訴状は被告銀行には昭和五五年五月一四日に、被告協会及び被告公庫には同月一三日に、被告甲野には同年六月一七日(但し、日本時間)にそれぞれ送達されたので、右の各金員に対する右各送達の日の翌日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否

1  被告甲野

(一) 請求の原因1、2及び3の各事実はいずれも認める。

(二) 同4の事実は知らない。

(三) 同5のうち原告の本件建物の競買申出は錯誤により無効であり、したがって本件建物の競落許可決定もまた無効である旨の主張は争い、その余の事実は知らない。

「裁判所の競落許可決定は裁判であるから、その違法を主張する競落人は、競売手続及び競落許可決定につき不服があるときには民訴法六七一条、六七二条等によって異議を申し立て、及び同法六八〇条により即時抗告を申し立てるべきものであり、民法五六八条により救済を求められる特別の場合を除き、競売手続及び競落許可決定の違法を右手続によらず別訴で主張し競売手続及び競落許可決定の違法無効を主張することは許されないものというべきである」(最高判昭和四三年二月九日民集二二巻二号一〇八頁)から、競売について民法九五条の適用があることを前提とした原告の主張は、主張自体失当である。

(四) 同6は争う。

(五) 同7は争う。

競落建物の敷地使用権の不存在を理由に民法五六八条一項、五六六条二項を類推適用して契約を解除することは許されない(東京高裁昭和五一年一二月一日判決、判例時報八四六号六八頁)と解すべきであるから、原告の主張は失当である。

(六) 同8は争う。

(七) 同9の事実は認める。

(八) 同10は争う。

2  被告銀行

(一) 請求の原因1及び2(一)の各事実はいずれも認めるが、同2(二)、(三)の事実は知らない。

(二) 同3の事実のうち、競落代金が四四七万七〇〇〇円であったこと及び原告が右代金を支払ったことは知らず、その余は認める。

(三) 同4のうち、(一)の事実は認めるが、その余は知らない。

(四) 同5の事実は知らない。

(五) 同6は争う。

(六) 同7は争う。

民法五六六条は、これを制限的に解すべきであって、瑕疵として法的側面を有する場合であっても右五六六条に直接該当しない限り、その処理は同法五七〇条によりこれをなすべきであり、本件には同法五六八条の適用はない。

(七) 同8は争う。

(八) 同9の事実は認める。

(九) 同10は争う。

3  被告協会

(一) 請求の原因1及び2(二)の各事実はいずれも認めるが、同2(一)、(三)の事実は知らない。

(二) 同3の事実のうち、東京地方裁判所が昭和四七年一〇月一六日、被告銀行の任意競売申立てに基づき本件建物について競売開始決定をしたことは認めるがその余は知らない。

(三) 同4のうち、(二)の事実は認めるが、その余は知らない。

(四) 同5については被告甲野の認否と同じであるのでこれを引用する。

(五) 同6は争う。

(六) 同7については被告甲野の認否と同じであるのでこれを引用する。

(七) 同8は争う。

(八) 同9の事実は認める。

(九) 同10の主張は争い、被告甲野が無資力であることは知らない。

4  被告公庫

(一) 請求の原因1及び2(三)の事実は認めるが、同2(一)、(二)の事実は知らない。

(二) 同3については被告協会の認否と同じであるのでこれを引用する。

(三) 同4のうち、(三)の事実は認めるが、その余は知らない。

(四) 同5については被告甲野の認否と同じであるのでこれを引用する。

(五) 同6ないし8は争う。

(六) 同9の事実は認める。

(七) 同10は争う。

三  被告甲野の抗弁

原告は、本件建物に敷地使用権がないことを知ったときから一年を経過した後に解除の意思表示をしたものであるから、右解除の意思表示は除斥期間満了後になされたものであって無効である。

四  被告甲野の抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

原告が敷地使用権の不存在を知ったのは、敷地所有者である訴外丙川一郎から提起された本件建物収去土地明渡請求訴訟において、昭和五四年一一月二九日、最高裁判所で原告の上告を棄却する旨の判決があり、原告敗訴の判決が確定したときであるから、原告の解除の意思表示は一年の除斥期間内になされている。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因1の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば請求の原因2ないし4の各事実を認めることができ、これに反する証拠はない(但し、原告と被告甲野との間では同2及び3の事実、原告と被告銀行との間では競落代金が四四七万七〇〇〇円であったこと及び原告が右代金を支払ったことを除く同3の事実並びに同2、4の各(一)の事実、原告と被告協会との間では同3の事実のうち東京地方裁判所が昭和四七年一〇月一六日被告銀行の任意競売申立てに基づき本件建物について競売開始決定をしたこと及び同2、4の各(二)の事実、原告と被告公庫との間では同3の事実のうち右の事実及び同2、4の各(三)の事実はいずれも各当事者間に争いがない。)。

二  原告は、本件建物の競買申出には要素の錯誤があって無効であるから、その競落許可決定もまた無効である旨主張するが、本件建物の競売は、昭和五四年法律第四号による廃止前の競売法(明治三一年法律第一五号、以下、「旧競売法」という。)に基づくものであり、右旧競売法による競売においても、競買人のなす競買申出は訴訟行為に準ずべきものであり、これに基づいてする裁判所の競落許可決定は裁判であるから、競落許可決定を受けた最高価競買人は右競売手続及び競落許可決定につき不服があるときには、旧競売法三二条二項によって準用される昭和五四年法律第四号による改正前の民事訴訟法(明治二三年法律第二九号、以下「旧民事訴訟法」という。)六七一条、六七二条等によって異議を申し立て、及び同法六八〇条により即時抗告を申し立ててその是正を図るべきものであり、これらの規定によらず競売手続外で、競売手続及び競落許可決定の無効を主張することは許されず、競落人は、場合によって民法五六八条等によって救済を受けることができるにすぎないものと解される(最高判昭和四三年二月九日民集二二巻二号一〇八頁参照)。

従って、原告の右主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

三  次に、原告は、建物の競売の場合に、その建物に敷地使用権が存しないときには、民法五六八条一項、五六六条二項を類推適用すべき旨主張するので考えると、民法五六八条が競売の場合に債務者及び債権者の担保責任を、いわゆる権利の欠缺及び瑕疵の場合に限定し、物の瑕疵の場合にこれを否定しているのは、競売が売主である債務者の意思に基づかないで行なわれ、また、債権者も物の性状に関して知る機会が少ないのが通常であることを考慮し、むしろ競落人に対し競売の目的物件を調査すべきことを要求し、競落人が自己の危険において競落すべきものとすることにより、競売の結果が容易に覆滅されることを防止し、債務者及び債権者の期待を保護しようとする趣旨に基づくものである。従って、競落人が担保責任を追求しうる場合を規定する民法五六一条ないし五六七条を安易に拡張して解釈することは許されないものであるところ、建物の競売においては、常に地上権、賃借権等の敷地使用権が存在するものとして競売される訳ではなく、ただ、敷地使用権が実際に存在するときには、これが建物の競落に伴い従たる権利として競落人に移転するに過ぎないものであり、敷地使用権の存否及びその内容は必要的公告事項ともされていない(旧競売法二九条一項、旧民事訴訟法六五八条参照)ものであるから、敷地使用権の不存在は民法五六一条ないし五六七条のいずれの場合にも該当しない。

しかしながら、敷地使用権が存在し、それが地上権である場合には、建物の競落人は敷地の所有者に対し当然にこれを主張し得るわけであるし、敷地使用権が賃借権の場合には、その移転につき敷地所有者の承諾を得なければならないものの、もし承諾が得られないときでも承諾に代る許可の裁判(借地法九条ノ三)を求める途も保障されているのに対し、これらの権利が存在しない場合には、競落人は敷地所有者から、新たに敷地使用権を取得しない限り、建物を取毀、移築等して収去しなければならないのであるから、建物を競落するにあたっては、その建物にこれらの権利が存在するか否かは無視することのできない重大な問題であることは言うまでもないところである。しかも、地上権はもとより、賃借権であっても、建物の価額とは別個に、それ自体として相当の財産的価値を有するのであるから、裁判所の命を受けた評価人が目的建物の評価をする(旧競売法二八条、旧民事訴訟法六五五条)には、これらの権利が存在している以上、その価額を考慮して目的建物の価額を定めるべく、もっとも同じく賃借権といっても、その目的(堅固建物か非堅固建物か)、存続期間、賃料額等その内容は様々な場合があるし、これらの一部が不明であるとか、賃貸借の存否、内容をめぐる紛争がある場合も稀ではなく、これらの事情は競落人が敷地使用権を取得し得るかどうか、取得し得るとしてもいかなる内容の権利を取得するのかに影響を及ぼすものであるから、評価人はこれらの事情をも考慮して評価をすべきものである。そして裁判所の定める最低競売価額は右評価額を斟酌して決定すべきものとされ(旧競売法二八条、旧民事訴訟法六五五条)、これが実際の競落価額の指標とされているのが実情である。以上説示したところにかんがみると、目的建物の従たる権利として、その敷地の地上権又は賃借権が事実上存在するものとして競売が行なわれたことが明白であるのに、これらの権利が不存在であったとして競落人の敷地使用が否定された場合に、競落人からの担保責任の追求をすべて否定することは、右のような取扱いの実情によって利益を受けている者が債務者及び債権者であることからしても著しく不公平かつ不合理であるといわなければならず、かかる場合には、同じく従たる権利である地役権が存すると称して取引がなされたのに、これが不存在であった場合の売主の担保責任を定めた民法五六六条二項の規定を類推適用する余地があるものと解すべきである。

そこで、これを本件についてみるに、《証拠省略》によると、本件建物の競売手続において、裁判所から建物の評価を命ぜられた評価人玉木京一は、昭和四七年一一月四日付で評価書を提出したが、これによると本件建物の評価額は四四七万七〇〇〇円とされていたことが認められるところ、原告の競落価額がこれと同額であったことは前示のとおりである。そして《証拠省略》によれば、右評価書には「本物件の敷地は借地にて約一六m2地代不詳」と記載されているのみで、敷地使用権の種類、内容についての詳細な説明は何らなされていないこと、本件建物の敷地はもと乙山春夫の所有であったところ、昭和四五年一〇月頃乙山春子が公売によって取得し、右評価書提出当時は同人の所有名義となっていたところ、競落前原告において調査したところによれば、本件建物の所有者である被告甲野は乙山春夫のいわゆる二号であって、同人から金を出してもらって本件建物を建てたらしいことが判明しており、原告としては敷地の借地権の価額は坪当り一二〇万円(敷地の面積を一六平方メートルとすると約五八〇万円となる。)、建物を含めた価額は一一〇〇万円との見積りを立てていたことが認められ、この認定を左右する証拠はない。右の事実によると、評価書の上では、その敷地使用権に関する記載からしても、また評価額それ自体からいっても、本件建物の競売が必ずしも敷地の賃借権が確実に存在していることを前提としてなされたとまではいえず、原告が調査したところを合わせると、かえって使用貸借を窺わせるものであり、これを要するに、本件建物の従たる権利として地上権又は賃借権が存在するものとして競売が行なわれたことが明白であるとはいまだ認められない。

してみると、本件については民法五六六条二項を類推適用する余地はないのであって、同条項を根拠とする原告の解除の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  以上によれば、原告の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 満田忠彦 山本恵三)

〈以下省略〉

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